近畿大学工業高等専門学校


TOEICや英検等、英語資格試験の受験タイミング ―知識と処理能力のシンクロナイズー

 

TOEICや英検等、英語資格試験の受験タイミング
 
―知識と処理能力のシンクロナイズー


 

 この1年間、本校情報コミュニケーションコース5年赤崎智君のTOEIC受験の軌跡をたどり、その状況をこのホームページで紹介してきた。約1年間で955点というTOEICの満点990点のすぐ手前まで到達したことは、本当に素晴らしい成果であったと思う。前回、このホームページ上では、彼の英語能力改善の話題から、英語習得のメカニズムについて考察を巡らせた。


 

 言語習得を説明するのに、言語世界のビッグバンという現象について述べた。この理論は次のとおりである。英語を学習する過程で、語彙、文法、リスニング、スピーキング、リーディングそしてライティングといった能力が、ある一定の段階に達すると、それまで単語や文法や音声などの個別事象の単なる集合体だった言語知識が、爆発的に複雑な構造体へと変化し、言語として体系化される現象である。このビッグバン現象が生じた後は、ほぼ自動的に言語が習得され、また表現できる状態になる。本稿では、その理論について、さらに掘り下げていきたい。そしてTOEICや英検等、英語資格試験の受験タイミングについて考察したい。


 

 人の言語処理能力を考える時、パソコンを例に挙げるとわかりやすいと思う。パソコンについてあまり詳しくない人も、ふつう電気店に行くと、ハードディスクやRAMの容量をチェックして購入することになる。簡単に言って、前者は記憶装置で、後者は様々な処理を司る装置である。私たちが言語を使用する時も、同じような能力が働いていることに気づく。学んだことを記憶する能力と、聴覚や視覚により外部からの信号を受信し、それを処理する能力である。


 

 私たちは英語を学ぶ際、学んだことを覚えようとする。例えば、誰もが単語を覚えるために、発音したり、ノートに書いたりする。そしてその知識は心の中に記憶される。もちろん覚えたことのすべてが、半永久的に記憶されるのではなく、忘れ去られてゆくものもある。一般的に言って、記憶能力は、大人になっても、維持されてゆくように思える。このような状況の中、言語の知識は時間と共に増えてゆくと言えるだろう。


 

 一方、言語の処理能力はどうか。多分この領域は若い時に優れており、大人になってからは、わずかずつ衰えてゆくものなのかもしれない。分野は違うが、そろばんを例に挙げよう。若い人は、その腕前をどんどんあげてゆく。ここでは、そろばんの動かし方という知識よりも、そろばんを使っての処理能力が試される。言語に話を戻すなら、定められた短い時間内で、さほど難しくないことについて、話したり、聞いたり、読んだり、書いたりする時には、若い人が力を発揮するのではないか。一方、難しいことを、いくら時間を使ってもいいからというなら、ある程度年をとった人が優れているかもしれない。


 

 以上、私たちの学習能力には記憶能力と、処理能力があることを述べた。次はそれらの能力を波長という概念から考えてみたい。今も述べたように、私たちの記憶は年齢と共に変化している。その変化を、ある波長で表すことにしよう。また処理能力も、その変化を波長で表すようにしよう。これも年齢とともに変化している。前者は大人になってからもある程度順調に周波数を刻む。一方、後者は若い時が最大で、その後はわずかずつながら次第に減衰して行く。これら二つの能力の波長が、シンクロナイズし、高出力を生み出す時、言語世界におけるビッグバンが起こる。つまり、心の中で急速に言語が体系化されてゆくのだ。


 

 学問を始めるのに、遅いということはないといわれることがある。それは一面ではそうだろう。しかしその学問を高度な段階まで追求しようとするなら若い時に始める方がいい。特に言語習得にとっては、若い時というのは極めて大切な時期である。若い時こそ、先ほど述べた二つの能力が互いに共鳴し、シンクロナイズが最大化する。赤崎君の受験状況を見ていると、一番伸びる時に勉強し、合格したことがわかる。彼はこの一年間を極めて有効に使った。彼をロールモデルとして、学生諸君も、果敢にTOEICや英検といった資格試験を受験してほしい。
 
 
 
 
 なお子供の言語習得について述べると、彼らは聴覚や視覚による刺激にきわめて敏感に反応する。要するに外部からの信号を受信し、それらを高速処理することができる。信号の受信とそれに対しての何らかの反応を示すことを繰り返すことで、最初は知識が非常に少なくても、高度な処理能力によりビッグバンが起こりやすい。そのため小学生であっても、TOEIC900点台が可能になると推測される。
 
 
 
 
 
 大人になってからの言語習得で注意すべき点についても述べておく。増加する知識と残念ながら少しずつ減衰する処理能力のバランスである。そのため知識で処理能力の衰えをカバーすることや、処理能力を訓練することで、その減衰を遅らせるといった対処が必要になる。このようなことに気を使うと、かなりの年齢になっても、十分に言語能力の向上が望めるだろう。


 

このシンクロナイズ理論を考えていた時、卒業式を数日後に控えた赤崎君と話す機会があった。彼には、TOEIC学習の話を聞くことが大変興味深かったと言った。彼も、私との会話を楽しんだと言ってくれた。5年間、真面目な話ばかりではなく、それ以外のことも話して、絶えず笑いが絶えなかった。この理論を語っていると、いつの間にか、「なごり雪」が風に舞い、私たちを包んだ。私はコートの襟を立てて、その雪を愛でた。そしていつものように微笑みを一つ返して、彼との別れを惜しんだ。
                                                                                                                      (英語科 竹内春樹)