近畿大学工業高等専門学校


英語が拓く若者の未来

 

平成26714
 
英語が拓く若者の未来
 
---英文学を研究する学生の場合---
 
 

 本校は技術者を養成するための学校で、学生諸君は卒業後、その分野で英語を使う機会を持つことになります。しかし英語はコミュニケーションの道具で、それ以外の多くの分野でも使われています。今回の記事では、大学で英文学を専攻している学生さんの例を取り上げ、その大学生が希望する職業、そして今勉強していることを述べてみます。本校の学生とは学んでいることは違いますが、未来への考え方では共感できる点が多いのではないでしょうか。皆さんも英語にさらに興味を持ってくれるとうれしいです。図書館にはTOEICや英検の対策問題集、そして文学が好きな諸君のためにはやさしく書かれた英語の小説が置いてあります。図書館を訪れ、司書の女性の方にお願いすると、問題集のCDを借りたり、英語の小説が置いてある場所を教えてもらえます。長い夏休みを迎え、英語にどうぞチャレンジしてください。
 


 

 
 先日、電車に乗ることがあった。席が一つ空いていたので、そこに座った。すると隣の若者が膝の上に英語の原書を開いて、熱心に学習していた。
 
 英語を教え、研究する者として、興味を持ったので、話しかけてみた。すると大学の英文科で英語を学んでいるという。
 
 勉強家のようで、現在、映画館で公開中の作品『マレフィセント』もすでに原作を読んだという。そのほか、たくさん原書を読んでいるようであった。私も学生時代には、英語の小説をたくさん読んだので、そのことを話すと、興味深く耳を傾けてくれた。

 

 大学生は、将来、翻訳家になりたいという。翻訳家に対するイメージは大変綿密な作業を続けている職業であった。単に単語の意味を調べるだけでなく、その作品が書かれた国の文化的背景を調べたり、著者に対する理解を深める必要がある。だから英語を知っているからできるというよりも、その職業に向いた性格の方だけができるように感じた。学生は「英語を苦手としている方にも、英語世界あるいは文化の素晴らしさを伝えたいのです」と志望動機を語った。そして学生は私に、「なれるでしょうか」と尋ねた。それで私は「熱心に学習されているようですから、きっとなれますよ」と答えた。

 

 私は直感的にそう思ったので、そう言った。さらに私は言葉を続けて、「友人が学生時代に受けていた授業で、英語の小説を読むように課題が出たことがあります。その時、彼は、『これはもう映画で見たから、読んだことにしよう』と言って、英語の小説は読まなかったのですよ。その後、彼は、どのような職業に就いたと思いますか。結局、英語を使わない職業に就いたのです。公務員になったのです。公務員だからいい仕事だ、とは思うのですが。だから、一生懸命、英語を勉強しているあなたは、きっと翻訳家になれると思うのです」と答えた。大学生はそのエピソードを聞いて少し微笑んだ。

 

 大学生が読んでいる原書には細かな日本語がぎっしりと書き込まれていて、翻訳家を目指すその思いを感じることが出来た。先ほど、翻訳とは綿密な作業の連続と書いたが、この大学生はその資質を持っているように思えた。

 

 大学生とは約50分の会話であった。話の中で、これから社会に出ていくに際しての、大いなる希望と少しの不安、この年の若者であれば誰もが持っている気持ちが伝わってきた。会話をしている私も、心は大学生の時代に戻って、希望を感じたり、少し考え込んだり、その当時の心理状態になっていた。

 

 大学生が今懸命に取り組んでいることが、きっと将来の扉を開いてくれることだろう。若者が心から願い、そして努力する時、前途は拓けてゆくものだ。話を聞きながら、いつの間にか、心の中で大学生に声援を送っている私に気付いた。

 

 私は、その大学生の今から20年後、30年後の歩みを知りたいと思った。今、進もうとする道の先にはどのような美しい物語が待っていて、いかなる素晴らしい人物との出会いがあるのだろうか。大学生の生き方そのものが、一つの物語ではないのか。そしてある意味、小説を読む時に感じるわくわくとした気持ちになった。

 

 電車は私の乗換駅に近づき、席を立った。私はその大学生に視線を送り、軽く会釈をした。その大学生も私を見て、微笑みを返してくれた。人生の中のわずか50分であったが、久しぶりに気持ちが大学時代にタイムスリップした瞬間であった。私は大学時代の通学列車から外へ出て、その後、数十年が経ったプラットホームへと降り立った。列車は運転手の出発進行の掛け声とともに、次の時代へと静かに駅を離れていった。見上げると、相変わらずの梅雨空が広がっていた。しかし心の中では青空がのぞいた気がした。大きな夢を描いている大学生との語らいが五月晴れの爽やかさをもたらしてくれたと感じた。
 
                                                                         英語科 竹内春樹