近畿大学工業高等専門学校


未来を創る卒業生

 

201412月3

 

未来を創る卒業生

 

 先日、この春本校を卒業した情報コースの学生が学校に来て近況報告を行ってくれた。彼はこのホームページで紹介したTOEIC955点を1年間の受験で達成した学生である。現在は筑波大学3年で情報学群情報科学類に在籍している。彼の今を尋ねるとともに、本校在籍時の感想も質問し、高専生や私たち教員に参考になることを見つけようとした。 なお、彼が訪問してくれたより少し前には名古屋大学3年に編入学した学生が、本校に来てくれたという。残念ながら、その時には会えなかったが、このように卒業生が本校を懐かしみ、学校に足を運び、進学先の学校のことを話してくれるのは、教師としても大変ありがたいことと感じる。彼によれば、一緒に本校を卒業した学生で、筑波大学の図書館学類に在籍している友人を含め、各高専出身の学生はいずれもよく努力しているという。
 
 彼の所属する研究室ではパソコンでプログラミングを作成している。企業から来られている人が指導しているということで、非常にレベルが高いように思われた。そのような学習システムはCampus on the Job Trainingというそうだ。その研究の難しさと戦いながらの毎日である。研究内容は大変時間を要することのようで、夜の8時、9時まで残って研究するだけでなく、時には研究室に泊まり込むこともあるという。
 
 彼は数学、物理だけでなく英語も優れていたので、そのことについて尋ねると、現在はESSに所属してスピーチの練習をしているということであった。TOEICでリスニングとリーディングの能力を高めたが、今度はスピーキング力を改善する場を求めたという。ESSではディベートを練習する学生もいるが、自分の意見をまとめた形で発表できるスピーチの方が、彼の必要には合っていると思い、それを選んだという。
 
 彼の友人には英語のスピーチが得意という学生がいるという。その学生は国立高専で活動し、全国高専英語プレゼンテーションコンテストに出場した経験がある。私も平成24年まで本校のプレゼンテーションチームの指導教員を務めたので、それがどれほど学生にプラスに働いたかがわかる。そのような学生と切磋琢磨して英語力を磨ける場にいる彼は幸せと感じた。
 
 彼に本校の教育について聞くと、「今のままで問題ありません。授業を真面目に受けて、帰宅後も自分なりの勉強をすれば、国立大学3年に編入学しても十分やっていけます」という返事だった。実際、大学での成績は満足がいく結果を残しているようだった。
 
 大学生活について尋ねた時、考えさせられる話題があった。大学に入ってくる学生は全員優秀であると思うが、入学後、大学生活の過ごし方に迷っている感がある学生もいるのではないかという発言だった。彼が言うのは、「大学入学までは学校の先生が指導してくれるけれど、入学後は自分で進むべき方向性を見つける必要を感じています」ということだった。確かに高校生であれば、大学入学を目指す。でも入試合格が目標で、その後のことを考えていないと、その時点で立ち止まってしてしまう恐れがある。大学合格が目的であったために、その次の一歩が踏み出せない。せっかく勉強してきても、次のステージのビジョンを描いてなければ、大切な大学時代を無駄に過ごす恐れがある。
 
 この問題に対処するため、大学に合格しても、そこが人生の新たな出発点と思う方がいい。それまでに培った基礎力を基にして、その次の目標に向かって励むなら、毎日がいつも新しいこととの出会いだと思う。もしも迷っているなら、今自分が置かれている環境とか、興味関心とか、特技とか、将来の希望職業とか関係するすべてを抜き出し、それをもとに座標軸を描いてはどうだろうか。そしてそこでの現在の位置を考えてみれば、これから進むべき進路の方向性が見えてくるのではないか。そのような思考を繰り返すことで、よりその方向性が確かなものになるだろう。
 
 
 彼と話していて、私たち教師が教えたこと、それが卒業生にとって、その後の人生の基礎力になっていることを強く感じることができた。今後とも、在校生に対して、大学に入って、自立した生活を送らねばならない状況になっても、一人で生きていける見識を伝えることが出来ればうれしく思う。学生諸君には刹那を超えて、将来設計のヒントになることを語りかけたい。
 
 話をしながら、彼が5年生の時に、私が授業で書いた言葉を思い出していた。黒板に「人生の答は自分で見つけなさい」と書いた。学生はこのような格言めいたことを言うと、面白いらしく「先生、もっと格言を連発して下さい」と笑いながら言っていた。有難いことに、彼はそれを実践しているように思える。人生の答とは人により様々と思うが、今後とも自分が正しいと思った道を進んでほしい。自分で選んだ道なら、たとえ途中で失敗することがあっても、後悔しないし、軌道修正しながら、目的地に無事たどり着けると思う。誰の前途にも様々な困難という扉が立ちはだかるかもしれないが、彼は今までそれらを努力することによってこじ開けてきたのである。そしてこれからも、彼は行く手を阻む一つ一つの扉を通り抜ける努力をしてゆくことだろう。
 
 彼の話を聞いている時、そこにいたある先生が、「あなたは何でもすぐ理解できる学生のタイプなんですか」と聞いていた。彼はそれに対して、「いいえ、一つずつ努力しながら解決策を探り、進んでいると自分では思っています」と答えていた。謙遜かもしれないが、彼の考え方が窺える気がした。
 
 帰り際に、彼は、またいずれかの日にか学校に戻ってきて、近況を報告いたしますと言っていた。もともと身長が高い学生だったが、卒業後一層大きく成長したように見えた。彼が前を見るその透き通った瞳には、どこまでも続く豊潤な未来が映し出されていた。ただそれだけでなく、その未来に向かってひたすら歩み続けようという強い意志も感じられた。過ぎ去る時間にただ身を任せるのではなく、勉学に励むことにより、彼は未来を創ろうとしていた。私たち教師は、その疲れを知らない努力、そして汲めども汲めども尽きることない能力を讃えるとともに、近大高専が学生諸君の前途を拓く学び舎となっていることを喜んだ。
 
 学生が学校に来てくれた時には、小春日和を一緒に連れてきたように思われた。その後、当地では近隣地区で雪が少し降ったような話を聞いた。正門近くの楓の最後の一葉は、役目を終え、風にその定めを委ねようとしていた。このようにすっかり葉を落とした木々は、冬を越える覚悟を、凛としたその姿で示していた。私は来年の春まで、いつも前向きで愉快な学生諸君との語らいを楽しみ、その笑顔で暖を取り過ごしたいと思った。
 
(英語科 竹内春樹)